兜町の長老の一言

ネット株が暴落してからは、さすがにマズイと思ったのか、日経にも距離を置いた記事が出るようになった。『日経金融新聞』二〇〇〇年三月二十七日付の「時価総額経営危うさ露呈」の記事がそうだ。ソフトバンク光通信が進めていた「時価総額経営」を「わずかな浮動株の売買によって膨らんだ時価総額など、企業価値の指標としてあてにならない」と切って捨てた。ヨイショの極め付きは東京新聞の二〇〇〇年一月ヤ目付の『成人の日 新時代の先達である自覚を』と題された社説だ。

「あるベン千ヤー企業の社長の話だ。『わが社では無遅刻、無欠勤なんてそんなバカな社員にはボーナスをやらない。アイデアを出した社員にはボーナスをやる』。表現は極端だが、これまでの精励・愚直型は置いてきぼりを食いそうな雲行きだ。(中略)そういえば、個人資産二百十億ドル(約二兆六千億円)で、世界第五位の富豪と米国の経済雑誌に紹介された重田康光さん。大学在学中に通信自由化という時代の波をとらえ、道を見つけた。中退して会社を興し、今や社員二千人の携帯電話販売会社の社長だ。強存強栄勝ち残りの時代は、若い人達にとって、夢の膨らむ面白い時代である。(後略)」

株価が上昇している時は持ちLげ、暴落したら叩く。これでは芸能雑誌と何ら変わらない。株価に左右されない、冷静な目で企業を見るのが経済ジャーナリストの原点ではないのか。証券会社の責任も重い。光通信の主幹事証券会社は野村誼券だ。野村は商丁ローンの日栄消費者金融の最大手、武富士が株式を公開した時の主幹事でもある。

兜町の長老の一人は、「酒巻英雄社長(当時)が重田に翻弄され、光通信の本当の姿を知らないままに主幹事を引き受けたのではないか」とみる。店頭公開の時に、これだけトラブルを起こした光通信が、店頭から二階級特進東証第一部に上場されたのも解せない。光通信日栄商工ファンドと肩を並べるくらい、エゲつない商売をしていることで有名だった。野村誼券のような地獄耳の会社がこうした悪評を知らなかったはずがない。株式公開は、幹事証券会社のサジ加減一つで決まる。光通信のような急成長企業の幹事になれば上場の際の手数料以外にもエクイティファイナンスなどで多額の手数料が入る。野村は手数料を稼ぐために、雑音に耳を覆い、一部上場をおし進めたのだろうか。

店頭から一部上場への特例を認めた東証にも責任がある。「寝かせ」は経済犯罪である。架空契約で金銭を受け取るわけだから詐欺だ。こうした会社を第一部市場に上場させたままで放置しておいていいのだろうか。光通信が非NTTドコモ系の携帯電話の三五%から四〇%(DDIにいたっては七〇%)を売りさばく最大の代理店であるからといって、やりたい放題の商行為をやらせておいていい筈がない。DDIも今回はさすがに腹に据えかねたようだ。「握り」の支払いを停止しだのが、その具体的な表われだ。