最高値に近い水準で売り抜ける

「寝かせ」が発覚した重田は携帯電話からの転進を図る。二〇〇〇年一月一日の経営会議で重田が打ち出したのは「デジタルクラブ」への転換だ。「デジタルクラブ」の業務内容は通信衛星(CS)放送の「スカイパーフェクTV」の加入契約を取ることだ。「毎月五千円弱で四年間契約すればCS専用の四万円相当のチューナー、アンテナをタダで設置してくれてCS放送が見られる。光通信には契約を取るたびに受付コミッションが入ってくる。重田商法の衛星放送版ですよ」(民放の在京キー局の役員)。代理店には受付コミッションの一部を渡し、光通信には番組を見るためにかかる料金の何%かがストックコミッションとして入る。

光通信の株価は五千円を割り込み、三千円台まで下げてしまった。九六年、株式を店頭公開した時の公募価格が八千九百五十円で、これを下回ると株価の下値抵抗線がなくなる、というのが兜町の専門家の見方だった。そして、その下値抵抗線をあっけなく割り込んでしまった。重田の前途は平坦ではない。社員には「持ち株を売るな」とメールで厳命し、株主には十五日間も連続ストップ安という辛い体験をさせた。およそ一ヵ月の間に実際に商いが成立したのはわずか四日という悲惨な目にあわせている。売りたくても売れないのだ。

だが、重田だけがちゃっかり持ち株を、それも最高値に近い水準で売り抜けていたのだ。「香港の孫正義」と呼ばれているリチャードーリーが大損(二〇〇〇年二月中旬、重田は十億ドル相当分の株式交換をすることで合意し、リーは高値で光通信株を買った。その後光通信株は暴落し、一千億円近い含み損になっているといわれている)をしようが、善良な株主には関係ない。もし、会社の内容を熟知している重田だけが儲かるような不透明な株取引があったとすれば株主代表訴訟の対象になる筈だ。

大手証券のアナリストは二〇〇〇年二月十四日という日付に着目する。「二月十四日の時点で決算(営業段階での大幅赤字)が見えていたんじゃないでしょうか。それを知っていた重田本人だけが、株を売り抜けて、懐が痛んでいないとすれば、それは大変なことです。このように彼の行動のすべてが、今では不信感を募らせる材料になってくる」。経営者として最も大切な「信用」が毀損してしまっているのである。

「投資家は二度と夢をみられなくなったのだから、光通信は年内持たないかもしれない」こんな辛辣な見方が株式市場に広がっている。米国のベンチャー事情に詳しい経営者は「今、シリコンバレーで、ノー・ソフトバンク、ノー・ヒカリが合言葉になっている」と言う。「彼等(孫と重田)と付き合うと金の話だけになる。人材もお客もついてこないと判断している」そうだ。