ただ今、四面楚歌

光通信はとうとう土壇場を迎えた。二〇〇〇年八月二十一日に発表した同年八月期決算の業績の下方修正は惨漕たるものだった。期中に下方修正した百三十億円の営業赤字より、若干、赤字幅は縮小したが、それでも百十六億円の営業赤字である。加えて、三月から七月までの五ヵ月間で、千八百店の「HIT SHOP」のうち千五十店を閉鎖し、立ち退き料などで五百六十億円の特別損失が発生した。「HIT SHOP」はピーク時のおよそ四割の七百九十六店体制となった。

損失を穴埋めするために、通信関連銘柄の米クアルコム(百七十五億円)、ソフトバンク(百四十三億円)、米シスコーシステムズ(四十億円)の手持ちの株式を売却して五百八十三億円の売却益を計上した。さらに市場価格の低下した社債を買い取って償却することで七十一億円の特別利益を出した。結局のところ、手持ちの株式の売却で八十億円の最終利益をひねり出すという、文字通りのやりくり決算となったわけだ。

最終利益は期中見通しを五十五億円下回り、前期(九九年八月期)比約二〇%減の八十億円となった。売上高は期中見通しを五百億円下回り、二千八百億円前後にまで落ち込む。重田社長は「当面のリストラ(事業の再構築)はこれで終わり、来期(二〇〇一年八月期)の営業損益の黒字化のメドが立った」と相変わらず強気だが、「終わりの始まり」というささやきが業界内から聞こえてくる。この決算では、前期比八〇%増の二百五十億円のストックコミッションが入ることになっている。しかし下期(二〇〇〇年三月から八月末まで)の携帯電話の保有台数は七万台の増加にとどまった。携帯電話は毎月、一万台の純増しかないとなると、早晩、利益の源泉であるストックコミッションも増えなくなる。右を見ても左を見ても「いいところがない」決算だ。

決算対策の舞台裏に一歩踏み込むと色々あることが分かる。まず、ソフトバンクの株式の売却だが、何故か、重田社長の資産管理会社である「光パワー」に売却している。「光パワー」からの借入金二百五十億円を一括返済したこととあいまって、「光通信は大赤字でも、重田の個人資産会社は蓄えを増やした」(光通信の元幹部)と陰口を叩かれる始末だ。こうした批判に対した重田は「ソフトバンクの社外役員だった私か役員を辞めてから一年以内に持ち株を売却するとインサイダー取引といわれかねない。だから、光パワーに売ったのだ」と反論する。

表面上、利益が出たようにするために、これだけ大量に株式を売却したのだから当然のことだが、二〇〇〇年四月末に千五百億円あったといっていた有価証券の含み益は、五分の一の三百億円にまで激減した。こうした極限状況の中で二〇〇一年から千百億円になんなんとする社債の償還が、待ったなしで始まる。社債の償還は一括返済だから、社債償還用の資金を確実にキープしておかなければならない。