有力販売代理店の光通信離れ

日本興業銀行をアレンジャーとするコミットメントライン(融資枠)を設定して三月に二百四十五億円を借りたが、四月に全額返済して解消した。住友銀行東京三菱銀行からの二百四十億円のシンジケートローンも期限前に返済した。このように銀行との関係は冷えきったものになっている。社債の償還資金を銀行からの新たな借り入れでまかなうことは、事実上、難しいのではないだろうか」(有力金融筋)

光通信のサイフの中身を点検してみる。七月末時点の現預金と保有有価証券は合計で二千百二十三億円だ。これに対して、借入金と社債は合計で千九百三億円。バランスシート上で現預金、有価証券の方が多いことを理由に、会社側は「資金繰りは大丈夫」と言っている。だが、保有有価証券のうち九百二十四億円分か未公開のベンチャー企業の株式だということを明らかにしておかなければなるまい。株式の新規公開で大化けが期待されたのはネットバブルの全盛期だけだ。「今では市場価値がゼロに近い株券もある。社債の償還の原資に未公開株の売却を当てにするようでは不安が募る」

光通信の本業である携帯電話の販売事業の成長性は完全に鈍化した。携帯電話の保有台数は六月末時点で四百五十万台としているが、半年前に比べて増加した台数がわずか七万台というのはどうしたわけか。光通信の発表だと九九年八月末から二〇〇〇年六月末までの十ヵ月間で百万台弱の保有台数が増えたことになっている。九九年九月から年末までの四ヵ月間で九十三万台増え、二〇〇〇年に入ってからは月一万台強、合計で七万台しか増えなかったなどという説明でアナリスト達は納得するのだろうか。「HIT SHOP」の数が激減したからだけではない別の要因があるのではないか。「寝かせ」後遺症から完全に抜け出廿ないから、こうした数字が出てくるのだ。

不安材料はまだまだある。傘下の有力販売代理店の光通信離れが始まったのだ。ピーク時に百店の「HIT SHOP」を運営してきた、最有力の二次代理店であるネクサス(大阪市)は、「HIT SHOP」を光通信に返上し、独自にキャリアと契約を結び、携帯電話の販売に乗り出した。他の有力代理店(二次代理店)に光通信離れが波及すると、携帯電話事業そのものが立ち行かなくなるかもしれない。

もっと痛いのは営業の柱である携帯電話が扱えなくなる恐れが出てきたことだ。光通信はDDI(第二電電)系の最大の代理店だった。しかし、DDIとKDD、TIDO(日本移動通信)が二〇〇〇年十月に合併して誕生したKDDIは、ニ〇〇一年秋、携帯電話部門を分離して直販体制を強化する。この段階で光通信は切り捨てられる可能性が高い」大手通信事業会社の社長)というのだ。

「寝かせという架空売り上げがバレて、光通信はDDIの怒りを買った。次世代提携電話サービスは消費者への機能の説明がこれまで以上に必要、不可欠になる。直販体制でないとNTTドコモに対抗できないという大義名分を掲げて光通信をバッサリ切ることになるのではないか」(光通信に近い通信業界の関係者)ここまでイメージダウンした光通信を、代理店として使うメリットは何一つない」(京セラの元役員)ことが、KDDIを一層ドライにさせている。